タイトルどう訳す問題

       

匂わせて興味を惹く日本語文化と、全体像を見せて興味を惹く英語文化

 日本語の文章と英語の文章では、タイトルのつけ方がまったく違います。乱暴に言えば、日本語タイトルは「ちら見せ」、英語タイトルは「ネタばらし」です。この違いはタイトルのつけ方だけにとどまる話ではありません。文化の違いに根差しています。

 

あらすじ紹介も基本は匂わす

 たとえば、あらすじのまとめ方にも同じ違いが見られます。本のカタログを英訳したとき、これで苦労しました。日本語での典型的なパターンを凝縮すると大体こんな感じです。「ある日、少年が野原で子犬と出会い……」。

 

 一体どういう作品なのかまったく分からない。その子犬が異世界へと連れていってくれる冒険ファンタジーなのか、人に心を開けなかった孤独な少年が子犬と心を通じ合わせていくハートフルストーリーなのか、はたまた子犬が実は地球外生物で宇宙人との戦いに巻き込まれるというSFアクション物なのか。ジャンルも分かりません。

 

 英文では、あらすじはどういう作品か分かりやすく説明するものです。ですので、これをそのまま訳すと英文あらすじとしては用をなさないものになってしまいます。それで、作品について調べて英文あらすじとしての体裁をととのえて訳しました。

 

文章構造も対照的

 文章構造にもその違いは見て取れます。英文では最初に着地点を示すのが一般的です。最初からゴールは見えていますし、予想外のことは滅多に起こりません。根拠となる意見やデータをいくつか示して、最初に見せたところまで連れていきます。

 

 一方、起承転結という漢詩の型の影響か、日本語の文章は先が読めません。むしろ、読めてしまったらつまらないという感すら。タイトルで何となく興味を惹かれたら、あとは書き手に身をゆだねて見知らぬ土地に連れていってもらうのが日本語の文章です。

 

匂わすタイトル  VS  内容が分かるタイトル

そういう内容の文章じゃないのに

 ですから、タイトルにこの違いがあってもまったく不思議ではありません。このように、「ちら見せ」「とネタばらし」はタイトルのつけ方だけの話ではなく、そもそも文化の違いに根差す、深い違いです。これが翻訳者にとっては悩みの種となることもあります。

 

 ホームページやニュースレターの記事を読んでみたくなるかどうかを決める大きな役割を担っているのがタイトルです。ですから、読者の興味を引けるように、さまざまな工夫がなされています。その極端な例が、中身とはかけ離れた「釣りタイトル」です。

 

 一方、英語の文章では、本文の内容を分かりやすく、短くまとめたタイトルがつけられます。なので、「釣りタイトル」をそのまま訳してしまうとおかしなことになります。(もちろん、こういうタイトルが日本でよしとされているというわけでもありません。)

 

思わせぶりな題に誘われて……

 そこまで極端なケースでなくても、日本語の文章ではわりと思わせぶりなタイトルがつけられます。「光風に抱かれて……」だとか、「花嵐に誘われて……」だとか。(一応、実存するタイトルにかぶらないように調べてみました。それがみなさん思った以上に色んな風に抱かれていて、重ならないのを見つけるのに一苦労。)

 

 英語の文章では、内容がぱっとつかめるタイトルが好まれます。匂わせるだけのタイトルも、やはり内容を分かりやすく伝えるタイトルに変えてあげると、英文で違和感のないものになります。

 

マーケティング文書で求められるトランスクリエーション

 どちらのタイトルがよいということでは決してありません。これは文化に根差した違いなのです。違和感をあえて残し、外国語文化の異質さを伝えるのもひとつの翻訳のあり方です。ですが、違和感のない翻訳が求められている場合は、そういった文化に合わせた“翻案”が必要になってきます。

 

 その場合は、クライアントに事情を説明し、了解を得たうえで、もっとも効果的なだと思うタイトルを提案します。翻訳は“ただ原文を訳す”わけではないということがよく分かるひとつの例ではないでしょうか。