身近な言葉でインパクトをつくる

       

難解なイギリス英語、シンプルなアメリカ英語?

  イギリス英語とアメリカ英語は、単語から、文の構造から、かなり違います。お叱りを恐れずに単純化して言うと、かたくるしいのがイギリス英語、くだけているのがアメリカ英語です。使う言葉も、構文も、イギリス英語のほうが難しい印象をうけます。難しい単語を使って、しっかりと組みたてられた複雑な長文をあやつります。一方、アメリカ英語は言葉も言い方も基本的にシンプルです。分かりやすい言葉で短めの文を作ります。

 

  言うまでもなくもともと英語はイギリスの言語ですが、今ではアメリカ英語が世界の主流になっています。もはやイギリス英語にもアメリカ英語の影響が見て取れるくらいです。

 

  「アメリカ英語はシンプルだ」とさきほど書きましたが、これはけなして言っているわけではありません。普段使いの言葉を使うことで、多くの人々に訴えかける力が高まります。これは何も読み手の知的レベルの問題というわけではありません。そういうスタイル、テクニックなのです。

 

政府高官だって決め台詞はフランク

  高官によるスピーチでも、この「大事なところをあえてシンプルに」というテクニックは見られます。たとえば、2017年の国連平和維持活動に関する会議におけるパトリック・シャナハン国防副長官のスピーチ原稿です。

 

  We appreciate that Secretary-General Guterres is taking steps to address these concerns. In this Ministerial’s meetings and beyond, we must maintain positive momentum on his recommendations and focus our efforts on improving delivery of operational mandates.

 

  The United States stands with you. We recommit ourselves to improving U.N. peacekeeping’s leadership, accountability, and performance. The United States remains the largest financial contributor and capacity builder for peacekeeping missions. We currently provide more than twenty-eight percent of assessed costs and have spent more than $1 billion training peacekeepers over the last decade. We will continue to provide a quarter of all costs into the future.

 

 この2段落は、スピーチ全体では後半に出てきます。1つ目の段落では、Momentum、operational mandatesとそれなりに難易度の低くない単語が長めの文で使われています。ここまで、市民を守る平和維持活動の重要性を訴えています。

 

  そこで打ち出されるのが「米国は国連とともにある」という大事なメッセージ。ここでは “The United States stands with you.”と易しい言葉で短く言い切っています。ここでたとえば “The United States would offer full support to the international community.”と言うのと比べてみてください。

 

  ほかの文に埋もれてしまって目立たないのではないでしょうか。それまで難しい言葉で長い文をつらつらと連ねてきたからこそ、ここでトーンを変えて、分かりやすい言葉で短く言う。そうすることでインパクトが生まれ、「ここが大事なポイントなんだな」と聴衆にも伝わります。

 

決め台詞は、短く、シンプルに、力強く

  これがアメリカ英語のリズムのつけ方と言えます。決め台詞がなかなかキャッチーなのです。マーケティングという観点からもおおいに学ぶところがありそうです。