知っていただきたい日本人と、すごいから使ってみの米語スピーカー

       

愚妻と愚息の国の宣伝文

  日本語では、基本的に謙虚なのがよしとされます。いや、謙虚だからほめられるわけでもない。謙虚であたりまえ、謙虚じゃなきゃダメ、という感じですね。自信満々な態度は好まれません。

 

  なので、製品の宣伝でも、「みなさまご存知の」とはやりません。よほど有名で、押すに押されぬナンバーワンというのではないかぎり。まず、基本姿勢は「知っていただきたい」、です。「知っていただいて、良さを分かっていただいて、使っていただきたい」のですね。

 

自社製品をべた褒めしちゃう英語文化

  一方、英語(少なくとも米語)文化はその正反対です。自社製品やサービスを最高級の褒め言葉でぐいぐい押してきます。「これ最高だから使ってみて」というのが基本の姿勢。「つまらないものだと思うならなぜ人に勧める?」という感じです。

 

謙遜と自慢のいたばさみ!?

  そういう文化の違いに配慮するのが腕利きの翻訳者です。「つまらないものですが」文化をそのまま英語にするわけにはいきません。

 

  「文化の違いに配慮する」って、実際にはどうするものなのでしょうか?

 

ナゾの製品を売り込んでみよう

  原文

地球にやさしく、セキュアな接続を実現した○○の技術。
精密なものづくりにかける弊社の思いをぜひ皆さまにも知っていただきたく、今回××を発表しました。

 

  なんのこっちゃですが、あえて何の製品か謎だけどありそうな雰囲気になるように例文を考えてみました。これをそのまま訳すとこんな感じです。

 

  日本語そのままの訳文
Our green technology ensures secure connection.
We released XXX to have you know about our passion for precise manufacturing.

 

直訳だといまいちピンとこない

  でもこれだと英語圏の読者にはアピールできません。特に、「知っていただく」をそのまま訳した “to have you know”は、英語表現としてそんなに魅力的なものではありません。たとえば “I’ll have you know that your ingenuity deceives no one.”(「言っておきますけど、そんな工夫しても誰も騙されませんよ」)など、文脈によっては少し対立的に聞こえる場合もあります。 “let you know”も似たようなものです。使い方によっては上から目線に聞こえることも。

 

文化も訳してみると……

  では、英語圏の読者にもアピールできるような英文に変えてみましょう。

 

  「文化に配慮した」訳文
We are proud of our green technology—X has established secure connection.
We released XX to showcase our commitment to meticulous craftsmanship.

 

  いかがでしょうか。日本語の文章との温度差が感じられるのでは? 「知っていただく」という謙虚な姿勢から、「ご披露する」という強気の態度に変わっています。原文と比べて、強い自信が伝わってくると思います。(何のことなのかは相変わらずナゾですが。)

 

文化も訳すのがマーケティング翻訳!

  このように、翻訳はただ言葉や意図を訳すだけではありません。言葉の背景にある文化の違いも考えに入れて訳します。特に、マーケティング翻訳ではこの部分での敏感さがとても大事です。ターゲットのオーディエンスに届く伝え方を見つけるのがマーケティング翻訳の仕事なのです。