よく見かけるmandateって本当はどういう意味?

       

mandateって何のこと?

  mandateという単語を最近よく耳にします。visionやmission、goalsなどと並べられて、“Our vision, mandate & objectives”のように謳っている企業のホームページもあります。「マンデート」とカタカナで使われることも。金融でも、政治の分野でも使われる言葉です。

 

  要求、指令、任務、使命、委任、権限、仲介契約書、委任状……。訳語として使われる言葉をざっと挙げただけでこんなに出てきます。agendaと同じで、分かるような、分からないような……。

 

  ここでひとつ、mandateの意味と使い方をはっきりさせておきましょう。

 

英和辞典によると

  ランダムハウス英和辞典では名詞のmandateをこう説明しています。
n.
1 (選挙母体が選出代表者に,または選挙人が議員・議会に対して行う)要求,指図;委任,権能付与,付託
The President had a clear mandate to end the war.
大統領は戦争終結のために無条件の権能を付与されていた.
2 (権力者などの)指令,命令(書);(上級裁判所の下級裁判所に対する,または上級官吏から下級官吏への)指令(書),命令(書)
a royal mandate
国王の勅令.
3 委任統治:第一次世界大戦後,国際連盟の監督のもとに認められた旧トルコ領や旧ドイツ植民地の統治形式.
4 ((しばしば M-)) 委任統治領[植民地](mandated territory).
5 〔ローマカトリック〕 (教皇の)聖職叙任命令(権).
6 (近代大陸法で)委任契約:他人のために労務を履行することを引き受ける契約.
7 〔ローマ法〕 (特に各領土の長官に発した皇帝の)命令,勅令.

ここでは特殊な用法は置いておいて、一般的な1と2を見ていきましょう。

 

下から上? 上から下?

  「(選挙母体が選出代表者に,または選挙人が議員・議会に対して行う)要求,指図;委任,権能付与,付託」というのは、説明に苦労している感じがにじみ出ていませんか? しかも例文では、「大統領は……権能を付与されていた」とあります。あまりしっくりくる表現ではないように思います。

 

 とにかく、下から上に与える命令、権限という感じでしょうか。(もしかしたら、「下が上に出す命令」というのが日本文化になじまないため、しっくりくる訳語がないのかもしれません。)

 

  一方、2はその逆です。1とはうってかわって、上から下にくだす命令です。同じ言葉の定義で、方向性がまったく逆なのが面白いですね。

 

誰かに何かをやらせること

  1から7までの定義を見てみると、全体的に、「誰かに何かをやらせること」が根本にあるようです。そこから、「要求、委任、付託」、という意味にもなれば、「命令」という意味にもなる。その何かをやるための「権能付与」、ひいては「権限」という意味が生まれてきたのでしょう。

 

英英辞典によると

 次に英英辞典(Oxford Dictionary of English, Second Edition revised)を見てみましょう。
1 an official order or commission to do something: A mandate to seek the release of political prisoners
a commission by which a party is entrusted to perform a service, especially without payment and with indemnity against loss by that party: Numerous service coverage mandates have also been introduced by some legislatures.
◾a written authorization enabling someone to carry out transactions on another’s bank account: A forged cheque is not a valid mandate, and the bank cannot debit the customer’s account.
a commission from the League of Nations to a member state to administer a territory: For the next 25 years, Syria was governed by French colonial administrators under a mandate from the League of Nations.
2 the authority to carry out a policy, regarded as given by the electorate to a party or candidate that wins an election: He called an election to seek a mandate for his policies
a period during which a government is in power: He called an election to seek a mandate for his policies

1が「公式の命令や委任、委託、委任状、委任統治」、2が「有権者が政党や候補者に与える信任、権限、政府の任期」です。

 

語源を確認

  さらに、ODEで語源を見ると、次のように説明されています。

 

-ORIGIN
early 16th cent.: from Latin mandatum ‘something commanded’, neuter past participle of mandare, from manus ‘hand’ + dare ‘give’. Sense 2 of the noun has been influenced by French mandat.

 

 もともとラテン語の「命じたこと」という言葉から生まれたのですね。さきほど、mandateの根っこの部分が「誰かに何かをやらせること」にあると英和辞典から読み取れたのももっともです。

 

 これで、mandateの正体がだいぶ見えてきたのではないでしょうか。

 

使命から民意まで

  たとえば、以下のような文でmandateに出会っても明解に説明ができます。

UNICEF has a mandate to safeguard the rights of all children, everywhere.

ここでのmandateはODEの1番の定義、「公式の命令や委任」です。この用法から公的な性格がなくなって、もっと広い意味での「使命」という用法が派生したのだと思います。企業概要でmandateを使うのは電力会社や水道会社などの公共機関がまだ一般的です。とはいえ、“mission & mandate”などの形で企業概要に使う一般企業も増えてきています。

 

  最後に、政治の分野での使われ方。
Boris Johnson Has No Mandate – He Won’t Last Through The Winter
これはHuffington Postの記事(2019年7月24日付)の見出しです。ODEの2番で「下から上」の意味にあたります。ここでは「民意」や「国民の支持」を意味しています。この意味で “seek a mandate” といえば「国民の信を問う」ということです。

 

言葉の輪郭をつかもう

  言葉は生きているので、用法や意味は広がり、変わっていきます。よく使われる単語ほど、大きく変化するものです。流行り言葉がその最たるもの。何となく分かるような、でもきっちりと意味は把握できていないような……という言葉とは、一度じっくりつきあってみましょう。輪郭がはっきりしてきたら、どんな文脈で出会っても怖いものなしです。