「紹介する」はintroduceじゃない!?
紹介といえばintroduceでしょ?
「紹介」というのは便利な言葉です。わりとよく使われます。そして、「紹介する」と言われてすぐ思いうかぶ英単語はintroduceです。でも実は、introduceはそんなに使いやすい言葉ではありません。
というのも、日本語の「紹介する」とは使われ方が違うのです。もちろん、「人を誰かに紹介する」「人と人を引き合わせる」という意味では違いはありません。ですが、「紹介する」もintroduceも、ほかにも用法があります。そして、その用法は微妙に違います。そのため、「紹介する」と出てくるたびにそのままintroduceと訳していると、かなりおかしなことになってしまいます。
「紹介する」の用例を紹介します!
それでは、「紹介する」とintroduceはどう違うのでしょうか? まず、「紹介する」という言葉がどういう意味で、どのように使われているか確かめるために、いくつか例を見てみましょう。
ケース1:「将棋の世界を紹介してくれたのは彼だった」
ケース2:「福沢諭吉は『西洋事情』で特許制度を紹介した」
ケース3:(講座の説明)「過去30年間でプロの翻訳者として学んだことを紹介する」
ケース4:「信州の自然の美しさを紹介する博物館」
ケース5:(プレゼンの説明)「X社が開発したグリーン技術を紹介する」
こうしてみると、「紹介する」は基本的に「知らせる」、「伝える」を意味することが分かります。広辞苑第六版でも、人の紹介、仲立ちという意味の次に、「情報を伝えること。未知の事物を広く知らせること」と定義されています。明鏡や日本国語大辞典でも同じです。
Introducing… ‘introduce’!
一方、introduceはどのように使われるのでしょうか? 英英辞典ではどう説明しているか、Oxford Dictionary of English (Second Edition revised)を見てみましょう。
introduce
[with obj.]
1 bring (something, especially a product, measure, or concept) into use or operation for the first time
2 make (someone) known by name to another in person, especially formally
3 insert or bring into something
4 occur at the start of; open
2(人を紹介する)と4(演目などを紹介する)は「紹介する」の用法とほぼ同一です。3(化学物質などを添加する)はさきほど国語辞典で見た用法とあまりに違うので、ここでは脇によけておきます。それでは、例文もふくめて、1をじっくり見てみましょう。
1 bring (something, especially a product, measure, or concept) into use or operation for the first time: Various new taxes were introduced
◾bring (a plant, animal, or disease) to a place for the first time: Turkeys were introduced to Europe from the Americas in the 16th Century
◾(introduce something to) bring a subject to the attention of (someone) for the first time: The programme is a bid to introduce opera to the masses
◾present (a new piece of legislation) for debate in a legislative assembly: Bills can be introduced in either House of Parliament
(制度など)を導入する。(植物など)を持ちこむ。(ある分野や物事について誰かに)初めて関心を持たせる。(法案)を議会に提出する。最初の三つにはfor the first time(初めて)という表現が使われています。
1つ目の用法は、「紹介する」は使えません。2つ目は、日本語だと「持ちこむ」、「移入する」、「導入する」などが使われます。3つ目は「紹介する」が使えます。4つ目は「提出する」、「発議する」が使われます。このように、introduceは「紹介する」とは使われ方が異なります。
「紹介する」がintroduceにならないケース
それでは、さきほどの例ではintroduceがそのまま使えるでしょうか。
ケース1(「将棋の世界を紹介してくれた」)とケース2(「特許制度を紹介した」は、ODEの定義1に当てはまります。そのままintroduceを使って大丈夫です。日本語と英語で使い方が同じというパターンです。
しかし、ケース3から5はODEのどの定義にも当てはまらないようです。くわしく見ていきましょう。
ケース3:(講座の説明)「過去30年間でプロの翻訳者として学んだことを紹介する」
ここでは、「紹介する」は「教える」という意味で使われています。「知識を分け与える」という意味合いです。たとえば、下のように訳せます。
I will share with you what I’ve learned in my 30 years of working as a professional translator.
ケース4:「信州の自然の美しさを紹介する博物館」
この場合、「紹介する」は「世に伝える、披露する」という意味で使われています。ふさわしい表現としては、showやtellなどが考えられます。
This museum showcases the beauty of nature Shinshu holds.
ケース5:(プレゼンの説明)「X社が開発したグリーン技術を紹介する」
「(聴衆に)説明する」という意味で使われています。ですので、シンプルにexplainでもOK。または、下のようにも訳せます。
We’ll examine X’s green technology.
「紹介する」とintroduceの違い
「紹介する」とintroduceの重ならない部分が見えてきました。「紹介する」はゆるく「伝える」、「教える」という意味で使われます。かならずしも「初めて」というニュアンスがあるわけではありません。一方、introduceは「初めて」が前提となる使われ方が多い。「紹介する=introduce」とはならないケースがあるのも道理です。
今回ご紹介した用法がすべてではありません。しかしこれだけでも、「紹介する」とintroduceというふたつの言葉がぴったり重ならないことはお分かりいただけたのではないでしょうか。「紹介ときたらintroduceね!」というわけにはいきません。いつでもそうですが、文脈をよく考えてぴったり合う言葉を見つけることが大事です。
言葉の広がりを知るために用法を知ろう!
言葉の輪郭をつかむために、こうして用例を調べることは重要です。「紹介する」という定義だけ知っていても、introduceという言葉を理解しているとは言えません。使われ方を知らなければ、その言葉を正しく使うことはできないからです。
知らない言葉を学ぶとき、本来は、数多くの場面でその言葉と出会って、いろいろな人にいろいろな使われ方をしているのを見て、その言葉の輪郭をつかんでいきます。辞書で学ぶのは、そのプロセスをすっとばすことになります。ですので、定義だけではなく例文も端から端まで読みつくして、その言葉の意味の広がりと使われ方をつかむようにしましょう。